書籍

先日のオンライン講座で、児童文学をオススメする理由を

子どもの視点を理解するのに役立つから

とご説明し、いくつかの作品をご紹介しました。その際、「もっとおすすめの本を教えてください」とのご要望をいただきました。自信はありませんし、私の限られた読書体験の中から選んだものですが、心に残る書籍(児童文学以外も含む)をご紹介したいと思います。

また、これだけは先に申し上げておきたいのですが、私がこれらの本に出会い、人生観が変わった瞬間もありました。しかし、私が感銘を受けたからといって、必ずしもすべての方に同じような影響を与えるとは限りません。特に子どもたちに役立つと思って選んでいるわけでもありません。


私自身が感じた喜びを皆さんと共有できればと考え、これらの書籍を選びました。もし少しでも興味を持っていただける作品があれば、ぜひ手に取ってご一読いただければ幸いです。


「農場の少年」ローラ・インガルス ワイルダー (著)

ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的児童文学です。

19世紀後半のアメリカ農村を舞台に、少年アルマンゾの成長物語が描かれています。厳しい自然の中で、家族とともに働き学ぶアルマンゾの姿を通して、勤勉さや誠実さ、家族の絆の大切さを伝えてくれます。

生き生きとした筆致で綴られた農村の暮らしぶりは、当時の文化や価値観を知る上でも貴重です。子どもから大人まで楽しめる心温まる作品として、ぜひ手に取ってご覧ください。


「よあけ」ユリー・シュルヴィッツ(著)

物語は、暗闇の中で静まり返った情景から始まります。ページをめくるたびに、少しずつ変化していく風景が描かれ、読み手を絵本の世界へと引き込んでいきます。最初は謎めいていた黒々とした影は、実は木であることが明らかになり、その下には老人と孫の姿が。そして、月明かりに照らされた山と湖の風景が広がります。

絵本の魅力は、言葉の選び方にもあります。「おともなく、しずまりかえって、さむく しめっている。」という簡潔な言葉が、夜明け前の静寂と神秘的な雰囲気を見事に表現しているのです。

やがて、夜明けとともに世界が動き出し、闇から光へ、彩りの世界へと変化していく様子が描かれています。子どもだけでなく大人にも深い感動を与えてくれます。


「マドレーヌといぬ」ルドウィッヒ・ベーメルマンス(著)

『マドレーヌといぬ』は、一度読み始めたら心が踊り出すような、魅力溢れる絵本です。

絵本の魅力は、何と言ってもその絵にあります。黄色の地に黒い線で描かれたマンガ風のページの間に、極彩色の風景画が現れる。それは、女の子たちが迷子の犬を探して歩き回ったパリの通りや広場、市場などを描いたもの。まるで自分もパリの街を散策しているかのような気分になれます。

そして、絵だけでなく、言葉の面でも秀逸な作品。絵が語っていることを、重ねて言葉で語る野暮はありません。

この絵本を読めば、パリの街に迷い込んだような、不思議な体験ができるはず。ぜひ、手に取ってご覧ください。


「飛ぶ教室」エーリヒ・ケストナー(著)

ナチス・ドイツ時代の抑圧的な社会に生きる少年たちの、自由への渇望と友情を描いた物語。

厳格な寄宿学校を舞台に、主人公マルティンと仲間たちの秘密の集会を通して、想像力の力と抵抗の精神が描き出されています。


権威に屈しない子どもたちの姿に私は心を揺さぶられ、自由の尊さを再認識させられました。また、想像力の翼を広げる子どもたちの姿は、今でも魅了されます。


「十一歳の誕生日」ポーラ・フォックス(著)

現代社会では、プレゼンテーション能力が重視され、明るいハキハキとした子どもが高く評価される傾向にありますが

この作品は、そんな表面的な印象だけでは測れない、子どもたちの豊かな内面世界に向けられた作品です。

大切なのは、一人一人の子どもの内面に寄り添い、理解しようと努めることなのではないか。。この作品は、そんな気づきを私に与えてくれた貴重な一冊です。


「ぞうのババール こどものころのおはなし」ジャン・ド・ブリュノフ(著)

大人が選ぶ子どもたちにとって「ためになる本♪」には最も選ばれにくい1冊かもしれませんが、私の心に温かな光を灯してくれた1冊です。

この絵本は、子を持つ母親と、病のため死を予感した父親との合作で、子どもを楽しませたい思いと共に、励ましと祈りが込められているように感じられます。

主人公のババールは、人間の世界に飛び込んでいく勇気と好奇心を持った子象です。彼の目を通して、私たちは子ども時代の無邪気な楽しみと、それを心配する大人の視点の両方を味わうことができます。

ババールは森を離れ、パリの街で新しい世界を発見します。大金持ちのおばあさんとの出会いや、デパートでの買い物、エレベーターの冒険など、彼の体験は読者を魅了してやみません。

著者自身の経験から生まれたメッセージは、子どもだけでなく、大人の私たちの心にも深く響くと思います。


「フォスターさんの郵便配達」エリアセル・カンシーノ (著)

この物語は、1960年代のスペインの海辺の村を舞台に、勉強嫌いで学校をよくさぼる少年が、村のただ一人のイギリス人フォスターさんのもとに郵便物を届けながら、周りの大人たちとの交流を通して成長していく姿を描いています。

作品の背景には、スペイン市民戦争やフランコ軍事政権下の歴史があり、少年は村外れの小屋に暮らす皮なめし職人の秘密を知ることになります。この職人は、実は人民戦線派の重要人物であり、治安警察に追われている身でした。また、フォスターさんとの関係性も徐々に明らかになっていきます。

カンシーノは、近現代の歴史に真摯に向き合い、文学を通して若者にその現在の成り立ちを伝えようとする作家です。この作品は、スペインの歴史と現在を巧みに織り交ぜながら、少年の成長物語を感動的に描いています。


「からすが池の魔女」エリザベス・ジョージ・スピア(著)

17世紀のニューイングランド。ピューリタン社会の閉塞感の中で、一人の少女が自由を求める物語です。

主人公キットの孤独と友情、そして勇気を描き出します。バルバドス島から故郷に帰ったキットは、不寛容なピューリタン社会になじめずにいました。しかし、村はずれのからすが池で出会った老婆ハンナとの絆が、彼女の心を解き放っていきます。

魔女狩りの恐怖が村を覆う中、キットとハンナの友情が試される感動的な物語が展開され・・・

「からすが池の魔女」が描く普遍的なテーマは色々と考えさせられました。


「トミーが三歳になった日」ミース バウハウス(著)

ナチス支配下のチェコにあったテレジン収容所で、父親が息子トミーへの愛情を込めて描いた一連の絵を基にした絵本です。

物心ついてから収容所しか知らない我が子に、壁の外にある自由な世界を伝えようとした父親の思いが、温かくも切ない絵と言葉で表現されています。

この作品の魅力は、過酷な状況下でも決して失われない親子の絆と、子どもたちの自由と幸せを願う親の強い思いにあるように私は感じています。絵の中のトミーは、収容所の外の世界で伸びやかに過ごしています。そこには、時には怪我をすることさえも含めた、真の自由が描かれているのです。

私たちは、子どもを守ろうとするあまり、時として彼ら・彼女らの自由を制限してしまいがちです。しかし、この作品は、子どもたちが自分の力で生きていく力を育むためには、ある程度の危険や困難も経験する必要があることを示唆していると感じられます。

美しくも悲しい絵と言葉で伝える感動的な作品です。ぜひ、手に取ってご覧ください。


「300年まえから伝わるとびきりおいしいデザート」エミリー・ジェンキンス (著)

この絵本は、一見するとデザートの作り方を説明しているだけのようですが、実はそれ以上に深い洞察に満ちています。

1710年のイングランドから始まり、1810年のアメリカ南部、そして2010年のカリフォルニアに至るまで、100年ごとに変化するブラックベリー・フールの作り方は、その時代の社会状況や人々の暮らしぶりを巧みに反映しています。

材料の入手方法、調理器具、召使の存在、家事への男性の参加など、絵本の一コマ一コマが物語る内容は実に豊かで、言葉だけでは語り尽くせない歴史の断片が散りばめられています。

また、この絵本は、変化の中にある普遍性についても問いかけています。300年という長い時間の中で、人々の生活や社会構造は大きく変化しましたが、ブラックベリー・フールというデザートは、その変化の中で生き延びてきました。それは、変化する社会の中で、普遍的な価値を持ち続けるものの象徴とも言えるでしょう。

ぜひこの絵本を手に取ってご覧ください。


「太陽の戦士」ローズマリ・サトクリフ (著)

古代ブリタニアの地で、運命に翻弄される一人の若者の物語。

ケルト人とローマ人の文化が衝突する中で、自らのアイデンティティを模索する主人公ベリックの姿が描き出されています。


緻密な歴史研究に基づいて再現された古代の世界観、ベリックの内面的な葛藤と成長、そして時代の転換期に生きる人々の姿。これらが織りなす壮大な物語は、読んでいると魅了されます。

私たちも現在、時代の転換期の真っただ中におり、何か感じられるものがある気がします。


「トーラとパパの夏休み」リーサ モローニ (著)

スマホに夢中のパパと、好奇心旺盛な娘トーラが繰り広げるキャンプの物語は、世代間のギャップと理解し合うことの大切さを感動的に伝えています。

絵本の魅力は、リアルな親子の姿にあります。パソコンとスマホに囲まれ、忙しく過ごすパパと、自由奔放に想像力を膨らませるトーラ。二人の価値観の違いは、現代の多くの家庭に通じるものがあるのでは!?

キャンプ場での出来事を通して、パパとトーラは少しずつ歩み寄っていきます。

モローニの柔らかな文章と、母親が手がける温かみのあるイラストが相まって、登場人物たちの心情が伝わってくると思います。きっと皆さんの心に響くものがあるはずです。ぜひ手に取ってご覧ください。


「オシムの伝言」千田 善 (著)

オシムは、複雑さと向き合うことを恐れません。彼の故郷であるサラエボでの経験が、その姿勢を形作ったのかもしれません。

日本の学校や社会が優秀さの基準とする「秩序を乱さないこと」に疑問を投げかけ、サッカーにおいては、むしろ「若い連中」の存在が重要だと説きます。そのエスプリの効いた言葉は、読む者の心を捉えて離しません。

また、本書では、オシムが20歳の頃、プロサッカー選手になるか数学者になるかで悩んだエピソードも紹介されています。サッカーだけでなく、数学と物理に秀でていたオシムの知られざる一面が垣間見えます。

オシムの言葉と人生観に触れ、私自身、生き方を見つめ直すきっかけなった1冊です。ぜひ、この機会に手に取ってご覧ください。


「なぞなぞの本」福音館書店編集部 (編集)

『なぞなぞの本』は、世界中の無名の人々の知恵と創造性が結晶化した、言葉の宝石箱とも言うべき一冊です。

編集部が丹念に収集した世界各地のなぞなぞは、単なる言葉遊びではなく、その土地の文化や価値観を映し出す鏡でもあります。

イギリスの「沈黙」を表すなぞなぞ、フィンランドの「秘密」の定義、また、私たちの東北地方に伝わる「畳の上の嵐」のなぞなぞは、一見シンプルながらも奥深い言葉の力を感じさせてくれます。


「やりすぎ教育 商品化する子どもたち」武田 信子 (著)

現代の教育システムが子どもたちを商品化し、本来の学びの意味を見失っていると警鐘を鳴らす一冊です。

本書の魅力は、教育の根本的な問題に切り込んでいる点にあります。著者は、日本の教育が子どもたちに勉強を “強いて勉めさせる” ものになっていると指摘します。学歴や収入を重視するあまり、子どもの個性や意思を尊重せず、まるで “高値で売れる商品” を作るかのように教育が行われていると言うのです。

また、世界各国の教育事情も紹介されており、読者の視野を広げてくれます。例えば、イギリスのケンブリッジ大学では “遊び” を研究するセンターがあり、デンマークでは子どもの成績を比較するようなテストは行われないなど、日本とは異なる教育観が示されています。

私自身、この本を通して、教育の本質を見つめ直し、子どもたちが自由に遊び、学び、成長できる環境を作るにはどうすればよいのか考えるきっかけになった一冊です。


「子育てのノロイをほぐしましょう 発達障害の子どもに学ぶ」赤木和重 (著)

この本の最大の魅力は、従来の子育て本とは一線を画す点にあります。多くの子育て本が、知識やスキルを身につけて子どもを “上手に” 育てることを目的としているのに対し、この本は子育てを “ゆるく” 楽しむことを提案しています。

著者自身が発達障害心理学を専門とする研究者であり、発達障害の子どもたちと向き合ってきた経験から、子育ての本質について深い洞察を示しています。子どもの個性を尊重し、その子らしさを大切にすることの重要性を説きます。

例えば、アメリカでの滞在中に出会った “トンプソン” との交流エピソードは、異文化の中で子育ての悩みを共有する様子が微笑ましく描かれています。


「子どものことを子どもにきく」杉山 亮 (著)

著者の杉山亮氏が自身の息子に対して、3歳から10歳までの8年間にわたって行ったインタビューを記録した一冊です。

子どもの純粋な言葉を通して、幼児から少年への成長の過程が生き生きと描かれています。

この本の魅力は、子どもの視点から世界を見ることの大切さを気づかせてくれる点にあります。大人は、子どもの言葉に耳を傾けることを忘れがちですが、この本を読むと、子どもの発想の豊かさや感性の鋭さに驚かされます。例えば、5歳の息子が迷子になった経験を語る場面では、子どもならではの視点が面白くも考えさせられる内容となっています。

また、著者自身の保育士としての経験から、保育現場の実情や理想的な保育のあり方についても言及されており、子どもを取り巻く環境や大人の関わり方が、子どもの成長に大きな影響を与えることを実感させられました。ぜひ、手に取ってご覧ください。